ふしきせぼの:第5レース ナイタラダメヨ(1998.11)

「アニ...」
ぼくを呼ぶ声がした。ルションにい(筆者注:現在のアケボノのりんじんりんじんりんじんりんじんりんじぃーん...をっと、ウマじゃないか)以外に呼ばれるのは久々だ。
しかも「アニ」と呼ぶ。
アグネス?あいつは「兄ちゃん」と言う。ボクをアニと呼ぶのは...
「...スワンステークス、勝ったんです...」
をを。ロイかぁ。久しぶりだね。あ、スワンステークスこっちで放映なかったから、知らなかった...おめでとう。偉大なり、スワンステークス(えっへん)
...ロイ。そう、ぼくの親戚。ぼくのひーばーちゃん(ごじらっていうんだ)の息子。だけどぼくより年下。なんかへん。
今もゲンキにターフを駆けている。そういえば、そろそろ休養明けかなぁ。このまえ新潟で見たし。(←行くなよ)
「...アニに逢いたいよ...」
ロイ。勝ったというはなしのわりには、元気がないような、そんな気がする。
ルションにいはひとつ欠伸をしている。

「いま、アニの隣には誰がいるの?」
「ルションにい」
「ボクの...空に...」
「ロイ...」
ロイ...ヤル...スズカ...そういえば...。
「どうしたのっ?」
「ミナイさんが...うえむらっちが...」
「???????」

厩舎の窓からひかる星が見えた。
「こんな夜...やだ...アニ...アニ...どうしてる...ねぇ、アニったら」
あの9月のさいごの日曜日にも、こんなキモチになったことがあったような気がする。
ただただ目を見開いて、ロイの声にならない声をうけとめる。
なにかが...。

「そういえば、アニもいっしょに走ったこと...あるよね」
「ん」
「アケボノさんでけぇでけぇって言ってた...。」
そう言いながら、すごいスピードでたれていった...と、思う。
...え?あいつが?

「アニ...星だ...星...なんだよ...」

「ロイ...お前は勝ったウマなんだから、笑わなくっちゃ。誰よりも明るい顔してなくっちゃ。オフサイドのにーさん立派だったよ。さすが...しゃどーろーるは違うよ。えらいよ...だから...ロイだってさ...喜んでろよ...」
「アニ...」
おいおい、ぼくの言ってるのも支離滅裂だよ。

...キセキ。聞いてるか。
そういうことだ。
キセキは元気か。ぼくは元気だ。

「アケボノ...ちょっとおとなになったんじゃないか...」
ルションにいはちょっとぼくを見て微笑んだ。
...ロイ。元気でいようよ。せめて僕達だけでも。あ、キセキ、キセキも仲間だよ。