ふしきせぼの:第9レース とくべつ(1999.9)

そう。キセキはまたゴウシュウにいってしまった。
弟AWもフランスにいってしまった。
けっこう暇だ。
なんだか来年から忙しくなるらしいので、ことしのうちにバカンスをしてみたいと思ったのだけど。
札幌競馬場に展示されにいきたいなぁ。
なんだか、昼休みに展示されて、終わってから、専用席でご観戦のあとですすきのにつれていってもらえるらしい。
でも、ぼくはまだまだしんまいなので、21世紀までたのしみにとっておこうと思ってる。

来年から忙しくなる、かもしれないのって、
どうもキセキが「ニッポンにいる僕のトモダチ、いいよ」と、ゴウシュウのひとにぼくを紹介してくれたらしいのだ。
ぼくもタイキシャトルになれるのかもしれない。(←をいをい)
ゴウシュウにいくと、真夏にサンタクロースのふんそうをして展示される必要があるらしいけど。

と、ひとりごとの口だけが動くのって、なんだかさびしいなぁ。
だれか遊んでくれないかなぁ。
ルションにい、どうしてるかなぁ。

「いけぇ、いけ...!」
ルションにい、なんだか声をかけづらい雰囲気になってる。
なんだか興奮してるみたい。
ルションにいのばぼうからノックする音がきこえてきて、ぼくは顔を出した。

「アケボノぉ。見ろよぉぉぉ」
「どしたですか、ルションにい」
「...」
ルションにい、ことばがないらしい。
きょう中山でシンバ勝ちしたのは、おとうさんがルションにい、だけらしい。
ルションにいは、それぞれのおかあさんの顔を思いだして、語っていた。
「ルションにい」
「?」
「シズナイも楽しかった」
ルションにいが、シズナイからここに来た、というのは、何度となく聞いていた。
「ぼくの隣にいるのも、悪くないですよね」
「そりゃそうだ。で...」
ルションにいは、シズナイに戻りたいと言いそうになってたんだと思う。ぼくはここだけを知ってるけど、ルションにいは、津軽海峡をわたって、ここにやってきた。ぼくはもうすぐ海を渡るのかもしれない。キセキのおかげで。うーむ。
「ルションにい...」
たまらなく涙があふれてきそうになった。ルションにいは黙ってぼくのほうを見てた。
なぜか(なぜなんだ)バーリンちゃんの顔が頭に浮かんできた。

それからぼくはルションにいの部屋でいっしょにテレビをみてた。
ルソーが...。

キセキ、どうしてるかなぁ。
ドージマ先輩、弟をよろしく...。

そんなことを思いながら空を見上げる。うっすらとした月がなんだか笑いかけているようだった。