ふしきせぼの:第10レース 空を見上げろ(1999.10)
「凱旋門」という字を教えてくれと、パスから手紙がきた。
その前に「敦えてくれ」ってなんだ。
ようやく春がやってくる。
そしてシゴトは忙しい。
忙しいうちが華だというのはこのシゴトの常だから、気合いを入れて頑張らなければと思う。
3歳になった息子とか娘とかからも残暑見舞いが来たけれど、こっちは暑いわけじゃない。
フランスは雨らしい。
凱旋門賞、って、遠い世界にあるようではあったけれど、父親に教わった訳でもないけれど、今年もそんな日が来たんだと、感慨にふける。
去年もここゴウシュウで、いろいろな馬に教わりながら、それを見ていたと思う。
来年あたりはアケボノもこっちにくるのかな。それはいい。アケボノもそういうシゴトをするべきだ。勝手にそう思っているし、話はないでもないようだ。
あれ?
ついていたテレビで、凱旋門賞の前のレースが映し出される。
それと同時に...
「あ、キセキ...」
スタンドで手を振っているデカい馬をみつけた。
「あららら...」
それにしても、何故アケボノがフランスに見えるんだ...。
「凱旋門賞観戦かぁ。いいなぁ」
「ちがうよ、いや、そうだけど。」
というとアケボノはおでこの月みたいに白くなっているところをすっとさすった。
「...そっかぁ。」 出走を待つ馬のなかに、おでこに月がある馬が。
「あ、そっかぁ。AW、頑張ってほしいねぇ」
アケボノ、興奮して聞いちゃいない。いいや。
「アグネスワールド、ほにゃららビューテー、アグネスワールド、ほにゃららビューテー、アグネスワールド...」
歴史が動く。
その瞬間を見つめられた気もする。そして、それは僕の力にもきっとなる。きっと。
...しかしなぁ。アケボノ、マジでフランスに行ったのかなぁ。まさか...。