ふしきせぼの:第2レース 馬券師らしい(1998.7)
僕はシャトル種牡馬というやつになって、近々海外出張に出ることになったらしい。そう場長さんに聞いたので、最後にもういちど、函館で娘の走りを応援しに行くことにした。テイエムキセキコという娘だ。名前がちょっと安直な感じもするのだけど、まぁいい。元気で走って欲しい。
僕が函館に来たのにはもうひとつわけがある。ちょっと早急にどうにかしたい考え事があったのだ...。
「おおっ、キセキコ...よぉし、複勝とった★」
聞き覚えのある声がする。
「あ、キセキだ...。元気?」
「アケボノ...」
「今日はマンノさんとかに、間違えて声かけなかったかい?」
「うっせぇなぁ。よく憶えてるなぁ」
「キセキコちゃん、頑張ってるね」
「...って、お前、どうやって馬券買ったんだよ...(^^;)」
「今度出来たんだ、「ヒシアケボノゲート」っていって、僕でも入れる馬券売り場が。で、今日は、「下北半島特別」があるから、津軽海峡を飛越してきたんだ」
飛越...て、やつにいちばん似合わない言葉じゃないか...と...思う...。
「キセキさぁ、こんどタイキシャトルといっしょにフランス行くんだって?」
「??????」
「だからさ、応援するのに「ビバフランス」の単勝、買ったんだ」
「????????」
「タイキシャトル、強いよ。ほんとに」
何言っているんだ。
「俺は種牡馬なの。シャトル種牡馬っていって、南半球に行って、秋冬もおしごとするの」
「...(顔赤くなってるらしい)キセキは働き者だね。頑張ってね。」
ところで、向こうで生まれた俺の息子って、○父○外、になるんだろうか。
否、そんな考え事する前に、早急に何とかしなくちゃ...あ、アケボノにも相談してみよう。
「お前、ラジたんはもう決めたのか?」
「せんせいのなまえと同じ名前のうまぬしさんの、センターフレッシュ。つのちゃん乗ってるし」
よし。
「...そのことなんだけどさ...。ちょっと相談のってくれる?」
「キセキが相談なんて珍しいなぁ。何?」
「スターパスがさぁ...夜な夜な馬房で泣いてたんだと。「俺は、そんなにそんなにつのちゃんに嫌われているんだろうか」って」
「え?」
「ドクトリンとかち合ったときも、角田さんはドクトリンに乗りに東京に行ってしまった。今回なんて、別なチームの馬なのに...って、突っ伏して起きねぇンだよ。ま、スターパスは俺と馬主いっしょだし、何かにつけてかわいがっているんだけど、今回のことは...困ってしまって。」
「?」
「だって...「そりゃキセキさんは、ずっと、デビューから引退まで、つのちゃんに乗ってもらって、いいですよね。今でも、「フジキセキがなんちゃら」とか、聞くしさぁ。ドクトリンだってそうだし...」とかいうんだよ、あいつ。何て言っていいんだか」
「?」
アケボノは最後の最後に...おっと、それは言うまい。
「キセキ、今連絡取れるの?福島に」
「騎手は調整ルームの中だけど、馬は大丈夫じゃない?」
「じゃあ、連絡先教えて」
アケボノは、何を言ったんだかわからないけど、スターパスはそれなりに落ち着いたって、アケボノは言っている。よかった。
そんなこんなでメインレースの時間だ。
「アラバンサは?」
アケボノは函館記念を取り逃したらしい。で、ラジオたんぱ賞だ。アケボノはセンターフレッシュの単複を握り締めている。
「じゃーじゃぁかじゃぁかじゃぁかじゃぁかじゃ...」
ファンファーレが鳴り響くと各馬ゲートに誘導...偶数番の馬が...?
え?スターパス?
「キセキ...まづいかなぁ、僕が言ったの...ますますつのちゃんを意識してる...」
スターパスのばかたれ。
角田さんのほうを見て何になるのだ。
しょうがないので僕はスターパスを応援することにした。
「スターパス置いていかれました...」
アケボノは御満悦である。センターフレッシュがコウイチにつけている。
函館の空に、センターフレッシュとスターパスの応援のいななきが、直線の間じゅう響き渡っていた...。