ふしきせぼの:第8レース イソイデ(1999.4)

春は来るのだろうか。かなり怪しい。
「もう何も信じない〜」と言いそうになる。
信じたくなくなっても、そうやっては、生きて行けないのだろうと思う。
なんでこういうことを日々続けているのだろうかと思いながらも、草をはむ。

珍しいヤツから手紙が来た。
手紙と言うよりは葉書だ。
「いろいろあってまた走っています。元気にやっていこうと思います。エビナさんがよろしくお伝えくださいとのことです。応援ありがとう」
アイツを応援した憶えはない。
ないけど、なんだか気持ちが...なんていうのかなぁ...。おぉぉぉぉぉぉ。
エビナさん?ん?なんだかなぁ...。

「お父さん嬉しそう。俺も嬉しい」
「??」雅彦じゃないか。
「雅彦、元気か〜」
「元気になってきた。皐月賞に出られるかもしれない」
「マジか?」
「俺800万なんだけど、上が回避したっていうから、抽選」
「...雅彦。」
「?」
「ひとの不幸を喜ぶヤツには、なるなよ。俺は、元気で走ってるだけで、嬉しいんだから」
「じゃぁ、そのうちホッカイルソーさんに挨拶に行けるように、頑張るよ」
雅彦もちょっとずつ大人になっている。
僕の知らないみちを走っていく。
もう僕は、アイツとは走れない。アイツは走ってる。そして雅彦も走ってる。

いつか、僕の不幸を喜んだ誰かがいて、そしてその誰かはどこかで別の物語を刻み始めている...のかもしれない。でもそれでもいいんだってやっと思えるようになったのだから。

ゆっくりと一歩一歩踏みしめるのも、先を急ぐのも、それぞれが宿命であるならば、せめてそれを受け入れるまでは楽しくありたい、そう思ったり。

「親になるって、すごいなぁ...」
そんなことを言ってアケボノがどきどきしていた、と、あとから聞いた。
そのうちわかるさ、とわかったような物の言い方をしてしまいそうな自分が嫌になったりした。
でも、そのうち、共有できるだろうな。
今まではずっと、「僕だけで」だったから。
渡辺先生と角田さんと蛯名さんに、手紙書こうかなァ。
桜花賞2頭出しっていうもんなぁ。桜花賞もいいなぁ。憧れるなぁ。
ごめんなさいエビナさん。すごくすごく世話になったのに、角田さんがいいなんて言って、僕はコドモすぎた。反省してる。ごめんなさい。ルソーに、そしてルソーを、よろしく。